PRODUCTION NOTE

 

音楽監督 日向由樹インタビュー

 
 
音楽監督

日向 由樹( ひなた・ゆき)
京都府出身。
作編曲家、D J 、ボーカリスト。伝統芸能からクラブミュージックまで幅広い音楽
的素養を基盤に、管弦楽器と電子音を融合させた独自のサウンドを展開。作編曲
を山下康介氏らに師事。
現在はT V ・ラジオC M や企業タイアップ、大阪・関西万博国内パビリオン等のイ
ベント楽曲を数多く手掛ける。近作にバンダイ「一番くじポケピース」C M 音楽
や「J a c k B u n n y ! ! 」タイアップ曲など

 
 

――音楽を仕事にしようと思ったきっかけを教えてください。

はっきりと「音楽を作ることを仕事にしたい」と思ったきっかけは、アニメーション映画『銀河鉄道の夜』※を観たことでした。

ちょうど思春期ということもあって、生きるということについて様々考えていた時期だったんです。そんなときに、この映画と、その音楽に出会いました。

『銀河鉄道の夜』の音楽を手がけていたのが、YMOで活躍された細野晴臣さんでした。
この映画で細野さんが作られた音楽は、美しくて、どこか救いを感じるのに、その一方で不安だったり、少し不気味だったりもするんです。
ほかにもたくさんの要素がひとつの音楽の中にあって、当時の私はそこに畏敬のようなものを感じました。
きっと、すっかり魅了されてしまったんだと思います。
それ以来、物語のために音楽を作ることは、私にとって何にも代え難い喜びになっています。
※編集部注:アニメーション映画『銀河鉄道の夜』は、宮沢賢治の同名童話を原作に1985年公開。監督・杉井ギサブロー、キャラクター原案・ますむらひろし、音楽・細野晴臣。

――今回『池袋ウエストゲートパーク』の音楽を担当するにあたって、最初にどんな音楽にしようと考えましたか?

石田衣良さんの原作は以前にも読んだことがあったのですが、今回、音楽を作るにあたって改めて読みました。

原作に描かれている池袋の街や、そこで生きている人たちを追いながら、頭の中でいろいろな音楽を流していました。でも、いざ「池袋という街にBGMをつける」と考えてみると、ひとつのジャンルには到底絞れなくて。

それに、原作を読みながら自分の中で思い描いていた音楽も、今回の朗読劇の脚本には、そのままではなかなか馴染みませんでした。
そこから、池袋のトラブルシューターとして街を駆け回るマコトや、Gボーイズを率いる“キング”ことタカシをはじめ、それぞれ違う背景や個性を持った登場人物たちに、少しずつヒントをもらっていきました。実際に物語の舞台になる場所から感じた空気も、音に取り入れながら作っていきました。

そして、脚本・演出のたかすぎさんが持っている音楽のイメージも、一度自分の中でほどいてみて、そこから大切なものを拾いながら、自分なりの音にしていった感じです。

最初は、朗読劇全体を通して統一感のある音楽にしたいと思っていました。でも作っていくうちに、いろいろな人のイメージや感覚が重なって、それが自然に音楽の中に混ざっていきました。

結果的に、池袋という街が持っている雑多さや多面性も含めて、「池袋のような音楽」に少し近付けたのではないかなと思っています。

 

――トワコの歌は、どんな人物として彼女を捉えて作ったのでしょうか。また、曲の中で特に大切にした部分はどこですか?

私の中のトワコは、とても繊細で、本当に傷つきやすい人なんです。

でも、その傷を隠したり、なかったことにしたりするのではなくて、自分の一部として大切に抱えている。だからこそ、彼女はあんなに強く、魅力的に映るのかなと思っていました。

なので歌も、パワフルで派手な力強さとは少し違うものにしたかったんです。静かだけれど、芯のところには消えない強さがある。もっと身体の奥、腹の底から湧き上がってくるものを、そのまま歌にするようなイメージでした。
ただ、それは原作を改めて読んだときに、私の中にいたトワコなんですよね。

今回の朗読劇では、原作にあっても描かれない部分がある一方で、朗読劇だからこそ描かれるトワコもいます。なので一度、自分の中にあった原作のトワコのイメージを少し遠くに置いて、今回の脚本を読みながら、みんなで「この朗読劇のトワコはどんな人なんだろう」とイメージを出し合っていきました。

そうやって、それぞれが感じたトワコを少しずつ重ねながら完成したのが、今回の『MID SUMMER RAVE』です。
でも、原作を読んで自分の中にいたトワコは、やっぱりずっと頭の中にいて。そのイメージをいったん抑えながら、今回の朗読劇で描かれるトワコの音を探していく。それは、作っていて難しかったところでもありました。